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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)294号 判決 1994年10月11日

控訴人 国

代理人 中村好春 亀井幸弘 ほか二名

被控訴人 破産者株式会社白鳳堂

破産管財人 山崎優

主文

原判決を取り消す。

奈良地方裁判所平成四年(ケ)第一六五号不動産競売事件の配当について、同裁判所が作成した原判決添付の別紙配当表のうち、公債権グループの配当表における順位3の公課庁大阪国税局の項欄外に「被控訴人に交付」とあるのを「控訴人(大阪国税局長)に交付する。」と変更する。

訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一控訴人の申立

主文記載のとおり。

第二当事者の主張

原判決記載のとおり(原判決二枚目表末行から同六枚目表五行目まで)。ただし、原判決三枚目表四行目の「強制執行」の次に「等」を加え、同八行目の日付の記載を削除する。

理由

一  事案の概要

前記引用に係る争いのない事実に基づき重要な点を指摘すれば次のとおりである。

滞納法人は平成四年六月一八日に破産宣告を受けたところ、控訴人(所轄庁は大阪国税局)はそれより前の同月一〇日に本件土地(原判決が「一土地」と略称するもの)に対して滞納法人に対する本件租税債権を徴収するために参加差押えをした(大阪市がそれより前に滞納処分としての差押をしている。)。しかし本件建物に対しては控訴人は参加差押えをしていない。その後本件不動産につき新京都信販株式会社(以下、訴外会社という。)による別除権の行使として不動産競売の申立て、競売開始決定を経て、滞調法による不動産競売の続行決定がなされ、控訴人はその手続において交付要求をしたところ、執行裁判所は配当表に控訴人に対する配当等実施額として本件配当金額を記載したものの、これを被告に交付する旨記載した。控訴人は右不動産競売の配当期日に直接本件配当金の交付を受ける権利を有するとして右配当期日において配当異議の申立てをして本訴に及んだ。

二  破産手続と滞納処分

本件に関する限度で破産法上の租税債権に関する規定をみるに、同法七一条一項は破産財団に属する財産に対し国税徴収法又は国税徴収の例による滞納処分をなした場合には破産宣告はその処分の続行を妨げない旨規定する。それは破産宣告前に滞納処分がなされていた場合に関する規定であり、その反面、破産宣告後には破産財団に属する財産に対して新たな滞納処分をなしえないと解すべきである(最高裁第一小法廷昭和四五年七月一六日判決民集二四巻七号八七九頁)。

そして、その趣旨は、破産財団に属する財産に対して破産宣告前から滞納処分がなされていた場合には、その後に破産宣告があっても、その滞納処分は効力を失うことなく続行し得るものとし、先着手の滞納処分の優先性を保障したものである、と解される。

本件におけるように、先行の滞納処分と後行の不動産競売とが競合し、滞調法により不動産競売の続行手続がなされたときも、実質的にみて滞納処分の優先性には変更がないものであるから、破産法七一条一項の趣旨は尊重されるべきである。

さらに、控訴人の滞納処分は参加差押えであるので、参加差押えの性質について検討するに、参加差押えは交付要求の一態様であるが、それをなすには差押えの要件(国徴法四七条)を必要とし、先行する滞納処分による差押えが解除されたときには差押えの効力を生ずる性質の制度であり(同法八六条、八七条)、これを滞納処分による差押えと区別して扱う合理的理由は見出せない。

本件土地に限ってみると、控訴人の参加差押えは破産宣告前になされており、最先順位の大阪市の滞納処分としての差押えが解除されることなく、滞調法により不動産競売が続行され、控訴人はその手続において交付要求をしたのであるから、控訴人に対する本件配当金は被控訴人に交付すべきではなく、直接控訴人に交付すべきものである。

一方本件建物については、控訴人は参加差押えをせず、右不動産競売手続において交付要求をしたに過ぎないので、自己の滞納処分の優先性を主張することはできない。したがって、控訴人は本件建物に関する限り本件配当金の直接交付を求める権利を有しない。そしてその本件配当金の割合は本件土地と本件建物との価格の割合によるべきものである。

三  本件土地と本件建物との価格の割合について

<証拠略>によると、本件不動産競売手続においてなされた評価書によると本件不動産の平成五年一月二六日時点での価格は自用の建物及びその敷地として三七九五万九〇〇〇円であること、しかし本件建物は築後約四〇年以上を経た建物で修繕後の復帰価値と修繕に要する費用とを比較すると価格は零とみられるものであること、さらに本件土地上には未登記建物で木造トタン葺平屋建浴室、便所、床面積五・六〇平方メートルがあり、右時点での右未登記建物の価格は再調達原価の四〇パーセントを基準とする二七万一〇〇〇円とみられること、執行裁判所は右未登記建物を本件建物の附属建物としてみて、本件不動産の最低売却価格を右未登記建物の価格を含む合計額である三八二三万円と決定したこと、これに対して訴外会社が六五六〇万円で買受ける申出をして、売却許可となったことが認められる。

右認定事実に基づいて考えると、右未登記建物は本件建物の従物であると認められるところ、本件建物の価格は零であるから、その用途に従属する建物も主たる建物から離れて独立して利用する価値はないと解されるし、全体としては高価な売却不動産を有効に利用するためには、それ自身は少面積で低価格である附属建物は除去する必要があるから、附属建物の価格は本件建物と同様に零であると認めるを相当とする。

執行裁判所が右未登記建物の価格と本件不動産の価格との合計を最低売却価格として定めたことの当否はすでに終了した競売手続内において検討されるべき問題であり、そのことは右認定を左右しえない。

それゆえ、結局、本件土地と本件建物との価格の割合は一〇対〇であるといわなければならず、本件配当金はすべて本件土地に関するものと認められる。

四  結論

以上の理由から、本件執行裁判所の作成した配当表の本件配当金を被告に交付する旨の記載は不適法であり、これを控訴人に交付する旨記載すべきであったのであるから、これをそのように変更することを求める控訴人の本件控訴は理由がある。

(裁判官 井関正裕 東孝行 岩田眞)

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